Vol.1 大久保 恒夫 氏|SPECIAL TALK|バイヤーズ・ガイド

連載記事

SPECIAL TALK

株式会社セブン&アイ・フードシステムズ 代表取締役社長
セブン&アイ・ホールディングス 取締役
(当時:株式会社成城石井 代表取締役社長)

大久保 恒夫

“勝ち残る”バイヤー、“支持される”店舗

 無印良品、ユニクロ、ドラッグイレブンなど、さまざまな企業の再建に取り組み、成功を収めてきた大久保恒夫氏。
彼が現在社長を務める成城石井でも、売上と利益が大幅に上昇しているという。時に「大久保マジック」とも呼ばれる企業改革とはいったいどのようなものなのか。そして勝ち残るためにバイヤーがすべきことは?小売業がとるべき次なる一手についてお話を伺った。

ドラスティックな改革が進んだ成城石井での1年

 私が成城石井の経営に携わるようになって、ちょうど1年が経ちました。おかげさまでその間に、経常利益が前年比で2倍〜3倍にアップするようになったことをはじめとして、順調な経営改革が進んでいると思っています。この成長を支えているのは、ひとえに“潜在的な可能性”です。成城石井には、確実に可能性がある。各店舗を見て回って、そのように強く思っています。 では実際にどういうことをしていくか。どうしたら私たちは勝ち残っていけるのか。そのポイントは、私なりにいくつかありますが、まずひとつめは“自らきちんと商品開発をしていく”ということです。

 今まで小売業が扱ってきた商品というのは、ほとんどがメーカー主導のものだったわけです。メーカーは、自分たちが売り込みたい商品を企画し、製造し、プロモーションをする。そして小売店は、メーカーが持ってきた商品をただ並べるだけでした。単なるメーカーの代理業のような役割をする部分が大きかったのですね。

  ところが、お客様の目は肥えてきていますから、消費者のニーズはますます潜在化して、高度に、しかも細かくなっています。購買のレベルがどんどん上がっていますから、結局は“欲しいもの”しか買ってもらえなくなってしまうのです。小売としては、売れないものを広いスペースで長々と置いておくのは当然リスキーですから、値段を安くしてでも売ってしまわなければいけません。これは悪循環です。

 よく考えれば、私たち小売業者は、お客様に一番近いところにいるわけです。刻々と変化していくお客様のニーズは、現場のスタッフが最も敏感に感じ取ることができる。ですから、このチャンスを最大限に活かして、私たちが「お客様の本当のニーズ」に対応し、自ら商品を提案し、メーカーと一緒になって商品を開発し、現場を挙げて売り込んでいくことができる。こういう動きは本当に大切だと思います。

 ニーズに合えば、お客様は“高くても買ってくださる”のです。そのために、どうニーズを探り、商品に付加価値をつけ、売る努力をしていけるか。こうした商品開発から販売までの流通構造の中で、私たち小売業が価値を生み出す主要なプレイヤーとしての役割を担っていくべきだと思うのです。

 そういう意味で、成城石井は「価格志向」ではなく、「価値をアピールするお店」でありたい。実際に多くの成果を上げていますから、これをもっともっと進めていきたいですし、きちんと進めていけば、売上も利益ももっと上がると考えています。

バイヤーが考え、こだわった“食の物語性”に注目した商品

 そもそもほとんどの消費者は、【価格】のニーズをもっています。当然、買うなら安いほうがいいわけですね。しかし近年では、価格が安いだけでいいというものでもなくなってきました。当然のことながら【安全・安心】が非常に大きなニーズになっているのです。

 さらに私たちが注目するのが、【おいしい】というニーズです。特に、舌で味わうだけでなく、どれだけ味にこだわっているかが注目されているのです。産地や素材、製法をとことん厳選していく。産地によって劇的に味が変わるわけではありませんが、「○○地方で△△さんが作った」という情報をしっかりと伝えることによって、味以外の価値をつけることができます。

 その食材が誰によって、どこで、どうやって作られて、どんなエピソードがあるのか。味に、こうした“食の物語性”をプラスしてあげるだけで、人々は豊かな気持ちになって、より満足感を得られていくのだと思います。例えば、実際に成城石井で開発したポン酢。これには、全国有数の産地として知られる《高知県安芸郡北川村産のゆず》の果汁を100%使い、《鹿児島県枕崎産の鰹節》や《北海道道南産の真昆布》を用い、なおかつ《化学調味料・保存料不使用》で《職人の手造りによる少量生産》。産地にこだわり、製法にも細心の注意を払った、まさにポン酢の決定版とも言える商品です。1本550円と決して安くはないのですが、ものすごく売れました。私たちがアピールした付加価値は、お客様が求めたものだったのですね。鍋の季節である冬場を前にして、ポン酢の需要が高まることを予想し、なおかつどういう価値を付けられるか。これは、バイヤーが自ら考え、現場の声を聞き、生産地に足しげく通い、商品を開発した結果です。こうした物語があれば、お客様は高くても買ってくださる。商品開発の努力が、粗利をきちんと確保することにつながるのです。

2022年10月05日(水)

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