株式会社オフィス内田 代表取締役会長
内田 勝規 氏
一口に生産者・食品メーカーといっても、個人レベルから従業員何百人という企業では販売方法が違ってきます。個人の方が大企業と同じ売り方をしても成功しません。でも、個人は個人で小回りがきいて、希少性があって、数に限りがあるというのは実はメリットになります。今まで外で誰にも売ったことがない初めての方が、実は一番チャンスなのです。このように自分のメリットとデメリットを、どう客観視できるかが第一段階です。
そして地域の逸品を作っていくとしたら、その地域の魅力も客観視できるかが重要です。例えば北海道の住民にとって雪は迷惑な物ですが、帯広行きの飛行機で一緒になった台湾の観光客は、窓から雪が見えた瞬間に狂喜乱舞しました。これは何かというと“ニーズが違う”、非日常ということです。
このように地域の魅力を商品にどう表現するかは、地域商品の一番の財産になります。北海道の雪も本当は財産なのですが、迷惑だと思ったら財産には見えなくなる。その地域資源をどう商品に表現していくかが、とても大切なことなのだと思います。
展示会や商談会も重要です。それも商談が成立した時ではなく、成立しなかった時こそ勉強になります。どうして自分のところに商談がこなかったのか? なぜ成約できなかったのか? この“なぜか?”が分かるかどうかが次のポイントです。
成立しない方が“学び”は絶対にあるのですが、折れやすい人も多いですよね。せっかく経費を捻出して商談会に来たのに成立しない、物産展に行ったのに売上が上がらない。でも、それは誰のせいかと言ったら、自分の商品、自分の売り方です。では、“どうしたらいいのか?”ということに気づくかどうかなんです。
このことに気づいて改善する人は成功する人です。一方で諦めてしまう人は、いつになっても成功しない人です。また、自分のやり方を頑なに守る人も淘汰されていきます。
今やお客さまの方が情報をたくさん持っていますから、こうした顧客ニーズの多様化に対応しきれるかどうかは、その情報を持っているかどうかです。
売りたいモノと売れるモノは違います。そして、売れるモノはいつも変化しているのです。
そして、生産者・食品メーカーの方はまず1回、自分で売ってみて欲しいですよね。物を作ったことしかない方が東京の店舗で売場に立って、“いらっしゃいませ”と声を出すのはとても大変だと思いますが、絶対にやったほうがいい。一体どんな人が自分の商品を買ってくれるのか、どうして買ってくれないのか。リアルな消費者が見られる場所、これは絶対に経験したほうがいいですね。
例えば北海道の岡田農園さんの『王様しいたけ』、は椎茸の品評会で、日本中の3000品目の中から見事1位になった。ところが、1位になったところで全然売れるようになるわけじゃやない。そこで、何とかして欲しいという相談がありました。
そこで売場で試食販売のコーナーを設け、同時にいつも売れているコロッケ屋さんに椎茸の肉詰めコロッケを作ってもらいました。美味しい物って食べなければ味が分からない。食べるシチュエーションをいくつ作るかというのが売上のポイントです。単に試食会をやるだけでなく、もう一方で絶対売れるという物とコラボした物作りをやると、2カ所で食べられ倍のチャンスになります。
販売当日、開店10時なのに朝6時くらいに生産者の息子さんが来て、緊張から真っ青な顔をして試食用の椎茸をずっと切っている。切っていないと不安だから一杯になっているのに不安でまだ切り続けている。
でも、朝お客さんが入ってきて椎茸を試食してもらって「美味しい」といわれた瞬間に顔が変わりました。そして初年度は1日に45万円だった売上が2年後には椎茸だけで80万円売るようになりました。もう息子さんも社長の顔になっている。自信を持ったわけですね。
これが卸だけをずっとやっていたら安定しているし楽ですが、自分で売るというチャンスを作ってみる。卸すという販路と、自分で売るという販路の両方を持っていたほうが良いのです。
バイヤーはあくまで消費者の代表ですから、リアルな消費者と会うためには自分で売ることです。これがやっぱり生産者側に是非チャンレンジしてもらいたい。
付加価値というのが生産者・食品メーカーの儲けなのです。どうやったら儲かるかというと手間暇をかけること。儲けたかったら手間暇かけろというのは、この業界のルールなのです。
でも、手間暇かかった付加価値の高い商品、儲けの大きい商品は、売り方が難しい。だからこそ、売り方を勉強しないといけない。やる人とやらない人の二極化はもっと進みます。そして諸費者側の二極化だけでなく、生産者側の二極化はもっともっと進むと思います。