(3)粗利と販管費を確保する経営戦略|バイヤーズ・ガイド

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(3)粗利と販管費を確保する経営戦略

粗利と販管費を確保する経営戦略

常に消費者の暮らしに寄り添う、食品スーパーマーケット。しかし、長引く景気の低迷がじわじわと影響を及ぼし、大胆な変革が求められている店舗も多いだろう。そのために必要な意識の変革とは? そして、経営の効率化に必要なものとは? 財団法人流通経済研究所・中川宏道氏に話を伺った。

<三極化>しつつある、食品スーパーマーケット

食品スーパーマーケットは、消費者と直接接する産業として常に景気の動向に敏感だ。それだけに、低迷を続ける経済状況が消費者の動向に与える影響を通じて、食品スーパーマーケットの売上を大きく左右してしまうのは言うまでもない。  こうした現状を全国でつぶさに調査している財団法人流通経済研究所の中川宏道研究員はこう分析する。

財団法人流通経済研究所
中川宏道 氏

慶應義塾大学経済学部卒業、慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程を修了後、調査会社を経て2005年流通経済研究所入所。専門領域は、店頭マーケティング研究、マーケティング・リサーチ、消費者行動論など。主な著書は、『インストア・マーチャンダイジング』 (共著、日本経済新聞出版社)など。

「2008年のリーマン・ショック以降、消費者の安売り・ディスカウント志向がますます顕著になってきています。安さを価値とするわけですから、消費者には分かりやすい。しかし一方で、徹底して商品に付加価値をつけようとして成功するスーパーも多くあります。いいものを食べたいという欲求は常にありますから、こうした店舗は景気に左右されることはありません。ディスカウントすることは一定のアピールになり集客もある程度見込めますが、消耗戦であることは間違いありません。長い目で見れば、付加価値をきちんとつけていくことが経営的な安定につながっていきます」。

価格訴求と、価値訴求。大きな変革を求められている食品スーパーマーケットにおいて、この2つが大きな流れになっていることは旧知のとおりだ。しかし問題なのはもうひとつのケースだと、中川氏は警鐘を鳴らす。

「価格でも価値でも、そのどちらにも対応できない“中途半端”な店は、これから本格的に淘汰されていくでしょう」。これと言って特徴がなく、どっちつかずな店に人は集まらない。今まで耐えてきても、競合が大きな転換をして集客すれば、即座に経営を直撃することになる。「自分の店の特徴、売りは何なのかを考え、徹底して取り組んでいかないと淘汰は早い。意識の改革と効率的な経営が今こそ求められています」。

粗利アップを呼ぶ、従業員満足度と縦割りの排除

一方、経営コンセプトを明確に設定したスーパーマーケットであっても、課題は多い。「例えば売上1500億円以上の上場SMチェーン上位11社の営業利益率の平均は2.2%しかありません。どのチェーンにとっても利益率を向上させるために、粗利をアップさせるか、もしくは販管費をコストダウンするかが求められています」。

それでは、粗利のアップにはどういう対策をすればいいのだろうか。まずは前述のような“店舗コンセプトの明確化”はもちろんだが、もうひとつ大切なのが“インターナルマーケティング”の徹底だという。

「これは社員向けのマーケティング、要するに“従業員満足度”を高めることです。客と直接触れ合う従業員が気持ちよく働くことが、顧客満足度につながるという考え方です。実際に、挨拶を徹底し、商品知識をしっかり教育して店をきれいにするなどの活動から入って集客を上げているケースも多いです。また、“他店にはない商品をいかに揃えるか”も重要。バイヤーが本来の機能を高め、徹底して商品を探すことも欠かせません。こうしたことを次々に行っているチェーンでは、営業利益率を5%以上出しているところもあります」。

さらに、部門の垣根を取り払う意識改革も重要だ。「店舗内の生鮮品などが並ぶ売場の“外周部分”は客の8割くらいが通ります。しかし、加工食品が並ぶ定番売場には1~2割くらいの客しか通りません。そこで、バイヤーが連携し、加工食品を生鮮部門にクロス陳列すれば、売上を大幅に伸ばすことが可能です。ある店では、250円くらいのタコの刺身の売場に、新しい食べ方提案としてレバ刺しのイメージで、ゴマ油と1000円以上する天然塩を置いたら、とても良く売れました。塩の定番売場では1000円以上の商品はほとんど売れませんが、生鮮売場ではイメージが湧くため、高くても売れていきます。このように顧客のニーズに合った新しい食べ方の提案は、縦割りを変えていく好例だと思います」。

経営の効率化のためには、明確な<戦略>が必要

もうひとつ重要なのが、販管費の低減だ。「食品スーパー業界は労働集約型ですから、単なる人件費の大幅な削減は、商品補充などの遅れなどによる売場の荒れを招き、客離れを起こしかねません」。では、いったいどうすれば、効率的な店舗運営ができるのだろうか。

「あるチェーンでは、商品の付加価値を高める一方で大幅に販管費を減らしています。例えば、店の天井を低くして冷房や照明の効率を高め、従業員に対しては業務を徹底して標準化しています。その顕著な例が“店内調理の削減”です。今まで店舗ごとにやっていた調理をやめ、セントラルキッチンに集中させる。職人がいなくても大丈夫なので、この動きはますます広がるでしょう。また、自動発注システムを導入するなど効率的なシステムを取り入れる動きも大切です。さらに、今の設備に対して大胆に切り込んでいくことも求められています」。

こうしたコストカットに、どこから取り組んでいくか。その大前提となるのが、戦略を明確化することだろう。

「これからどういう店にしていくかをトップがしっかり決めることが大切です。今後は“ディスカウント型”か、“付加価値型”か、という2つの方向になると思います。価値をしっかり定めている店は、ディスカウント型でなくとも、ナショナルチェーンが近隣に出店してきても影響を受けません。いずれにしても、小手先だけの変化では、何をやっても大したことになりませんから、中途半端なものでは淘汰されます。大切なのは、戦略を決めたら大きなところから手をつけること。何もしないで立ち止まることは死を意味します。それだけ、食品スーパーマーケットは岐路に立っていると言っても過言ではありません」。

経営の効率化のためには、まずは明確な戦略が必要──。
店舗の将来を決定づける意識改革が今、求められている。


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